からだへの敬意

Sさんのからだはこのままでいい。

無理に筋肉をつけたり、

骨格を矯正したり、

生活習慣について口出しする必要が

どこにあるでしょう。

からだは、そのかたの人生そのものです。

 

80歳代後半のSさんは、

穏やかな顔立ちの、上品な女性です。

1回ペースで遠方から施術にお見えになります。

震災の頃までは電車通勤をしていたそうですから、

たくさん働いたからだです。

骨格の歪みとか、足の血流が悪いとか、

それなりに問題点はあります。

でも私は、このかたには何もアドバイスはしません。

月に一度の1時間をこころゆくまで

楽しんでいただきたいのです。

 

先日は、足を揉んでいるとき、

おやすみになっているかと思ったら、

不意に、

「ふふふ」と小さな声で笑います。

 

「どうされました?」

 

「子供のころの夢を見たの。

あんまり気持ちよくて」

 

「それはよかった・・・」

 

どんな夢だったかわかりません。

でも、Sさんの笑顔と、

「気持ちよくて」

という言葉から、

きっと楽しい夢だったんだろうな、と、

 

勝手に思っています。

 

いろいろなお客様がいらっしゃいます。

年齢と関わりなく、

体の不都合を訴え、どうすれば改善するのか、

知りたがる方には、

私も一生懸命考えて提案します。

 

でも、

ある程度の年齢になり、

からだに不服を言うことなく、

ここにいる時間を「至福の時」と

思ってくださる方もいらっしゃいます。

その場合、

私はただひたすら、

このかたのからだに敬意を払い、

最大限に気持ちよくなるよう、

 

持てる力を出し切ろうとします。

 

「あ~空を飛んでいるみたいだった・・・」

穏やかにほほ笑むSさんを見ると、

 

マッサージ屋さんになってよかったなぁ~

と、

 

しみじみ思います。